2018年1月25日

こんにちは、佐伯尊子です。
今回は、データセンターのちょっと変化球なお話です。
最近日本で受講できるデータセンターの講習や資格が増えました。ソフトウェアベンダーの資格や試験と違い、各ベンダー独自のしきたりや作法がある訳では無いため、それぞれのベンダー技術に特化することは無いのですが、その反面どの講習会を選べば良いか、分かりづらく感じている方も多いかと思います。それぞれの特徴を踏まえ、まとめてみました。

(1) データセンター資格概要

データセンターの資格は、大きく2つあります。

(1)-a データセンターの「建物」に対するもの

(1)-a1 構築に対する資格
(1)-a2 運用に対する資格

(1)-b データセンター事業に携わる「個人」に対するもの

(1)-b1 構築に関する講習・資格
(1)-b2 運用に関する講習・資格
(1)-b3 (1)-a1の資格を判定する人に対する講習・資格

(1)-a1 データセンターの構築の資格とは、主にデータセンターのサービスの可用性のグレードによって分類するものです。Uptime Institute が1995年に提唱した「Tier (ティア) 」のガイドラインに始まり、アジア/アフリカで勢いを増す TIA-942.org が提唱する「Rate(レイト)」があります。ヨーロッパでは、TSI (Technical specifications for interoperability) 等がENに基づいて、分類・規定しています。
(1)-a2 運用の資格は、データセンター運用のしくみがきちんと決められているかを示すもので、北米や東南アジアでは既に「運用グループ全体」に対する資格の取り組みが開始されています。これも(1)-a1同様、Uptime Institute やTIA-942.org が先導して資格による分類を行っています。
今回は、(1)-a1 構築に関する個人に対する講習について、日本で日本語で定期的に受講できるものを中心に示します。それ以外にも海外ではいろいろな団体が講習・資格を行っています。日本で受講できるプログラムは、データセンターの構築に関する全世界の講習のうちのほんの一握りにすぎません。
(1)-b2 運用に関する講習は、(1)-a2同様今後増えていくと想定されます。
(1)-b3 の判定者への講習は、Uptime Institute を始めとして、TIA-942.org などが開始しています。

(2) なぜ講習や資格が必要か?
(2)-a 幅広く技術を理解できる。

オフィスビルなどの商用ビルは、建物を建築する際、モデル的に「この程度の電気設備があればOK」「空調設備もこんな感じ」「通信はビルにMDF室を設けて、大手キャリアや地域に根差したキャリアがMDF室まで引き込んでくれる」と、ある程度のノウハウがたまっています。
日本の場合は、まずどのようなビルを建てるか?その用途によって、その建物を建築する場所に対して「都市計画法」「土地区画整備法」「都市再開発法」などの法律が適用されます。そして建物自体は「建築基準法」があり、免許制度によってある一定基準以上の知識を持つ建築士によって設計されなければなりません。建物内の電気や空調、内装などは「公共建築工事標準仕様書」に基づいていなければなりません。出来上がった建物は「消防法」によって、ちゃんと消火設備や耐火設備が十分機能するか、施工されているか?をその地域の消防署がチェックしています。更に電気の運用に関しては、ビルごとに必ず「電気主任技術者」を置き、その下で安全な運用/追加工事を行っています。
データセンターもオフィスビルや商用ビルと同様に、上記取り決めや、法律に則っていなければならないのは当然ですが、更に特殊な要件が含まれます。それは、電気・空調・通信配線が、一般の商用ビルと比べ、複雑で冗長性や堅牢性が要求されることです。更に作っておしまいでは無く、竣工後の運用も考慮しなければなりません。そのため、通常のビルを建築するために必要な項目だけでなく、更に多くの注意事項や検討事項が必要になります。それを理解したうえで実際のデータセンターを構築、更に運用に生かすことができます。
そのためのデータセンター技術(と、一口に言っても非常に幅が広いです)について、偏りなく各技術を理解すること、更にそれらの技術をどの程度理解しているのか?を示すために、資格があります。

(2)-b 資格を持っていると

データセンター利用者が、ターゲットとするデータセンターに対して、世界規模でガイドラインを引くことが出来ます。
建物であれ個人であれ、資格を取得することで、データセンターを選択する際、「このデータセンターは建物や運用の可用性がこういうレベルである」とか「データセンターで働いている人たちのスキルがこういうレベルである」ということが明確になります。特に近年、日本国内だけでなく、海外にデータセンターを借りようとする日本企業や、逆に日本のデータセンターを利用しようと考えている海外利用者に対して、世界規模でどういうデータセンターなのかが明確になります。

(3) データセンター構築の講習・資格

データセンターの講習それぞれに共通しているのは、「建物」「電気設備」「空調設備」「ラック設置」「物理セキュリティ」「通信配線」技術についての理解です。これらのうち、どの部分に注力しているかが、各講習・資格の特徴になります。

(3)-a epi認定資格

epi社は、ITに関してエンジニアリングを基盤として、柔軟で革新的なソリューション・テクニック・手法を1987年から提供しています。そして、その手法に対して公平性及び能力の検証を保証する登録認証機関です。東南アジアを中心にアジア・欧州・アフリカ等で実績を多く持っています。データセンターに関する講習は、2009年から日本でも資格認定が始まりました。東京大阪を中心に1000人規模の資格者を輩出しています。
資格には、理解度や立場によってグレードや種類があります。


図1 epiのデータセンターに係る認定資格 (epi社Webより)

日本で日本語で受講できるのは、図1 の一番左の「Design/Build」のみとなります。
まず全ての人は、CDCP (Certified Data Center Professional) で、基礎的な内容を理解する必要があります。この講習に対する受講資格はありません。この講習内容は、建築・電気・空調を中心としており、講師が資格に則ったテキストを元にレクチャーする個人ベースでの座学になります。そして、データセンターを構築する立場の人たちは、更に深く理解する上級者向けの資格CDCS (Certified Data Center Specialist) を受講することが可能となります。これらは、日本人講師による日本語の講習、そして日本語で資格試験を受けることができます。
CDCE (Certified Data Center Expert) は、CDCP/CDCSのように建築・電気・空調を中心とした技術を学ぶのではなく、データセンターを構築するためのプロジェクトの必要性から、メンバーの選び方、土地選定~構築までの流れの確認、そして運用を経て撤去更地になるまでのライフサイクルについて学びます。CDCEは、基本は日本人講師による座学ですが、一部受講者同士が決められたワークに取り組みながら勉強します。なお、CDCE資格試験は、それまで英語だけでしたが、2017年秋以降日本語でも受験することが可能となりました。

(3)-b DCPRO認定資格

2016年から日本での講座が始まりました。英国DCD Groupが提供するデータセンターの専門家を育成する世界的な研修・資格制度になります。Datacenter Dynamics という世界規模のデータセンターの展示会/発表会のグループが主催しています。展示会や発表会だけでなく、Webを通した情報発信をしています。その参加企業や参加メンバーから「データセンター技術者に必要なスキル」を選定し、講習会の形にまとめたものです。図2は集合研修のカリキュラムを示しています。これ以外にオンライン研修もあり、独学することが可能です(但しオンライン研修は、2018年1月現在日本語環境は未整備のようです)。残念ながら日本では、左半分の設計・構築系の講習会のみで、右半分の運用系の集合研修は始まっていません。


図2 DCPROのデータセンター資格 (DCPRO Webより引用)

受講に対する個人の条件はありません。まず最初にDCDA (Data Center Design Awareness) 講座を受講します。「建築」「電気」「空調」「通信」について、日本人講師の元、参加メンバーが実習ベースで受講する集合研修方式です。構築/運用という区分けは無く、どちらの技術者であっても、必要となる技術を学ぶことが出来ます。また、EEBP (Energy Efficiency Best Practice) は、「エネルギー効率」に特化した講習になります。DCDAとEEBPに合格することで、DCP (Data Center Practitioner) として認定されます。また、上記以外にも更に上位/もしくは「電気」「空調」「プロジェクトマネジメント」など専門に特化した講習会がヨーロッパやアジアの各国で開始されており、2018年春以降、日本でも日本語による講習及び資格試験が更に増えていくことが予定されています。

(3)-c BICSI認定資格

BICSI (Building Industry Consulting Service International) という商用ビルや病院・学校・データセンターなどの公共建物について、構築や施工に必要な情報を横断的に規格化/教育を実施している北米中心に世界100か国以上に渡って会員のいる団体です。そのため、単に建物や電気・空調・通信だけでなく、防災や、ビル内放送、更に無線LANなどについても、細かく取り決めています。その団体が、データセンターに特化したマニュアルを制定し、それを理解していると認定された個人に対して DCDC (Data Center Design Consultant) 資格を与えています。構築のみに特化した資格で、ステップアップ講座などはありません。「建築」「電気」「空調」「通信」「物理セキュリティ」「DCIM (Data Center Infrastructure Management) 」など、500ページを越すマニュアルを理解するだけでなく、試験に関しては過去6年以内に2年以上データセンターにかかわる業務 (必ずしもデータセンター事業者である必要は無く、データセンターに機材を販売しているデベロッパーや、建築設計者、空調や電気の技術者、施工者、もちろん販売を手掛ける営業職もOK) に従事していなければなりません。また、初回試験申込時は、それらを証明する資料を提出するなど、他資格試験と比べ、煩雑な手続きを踏まなければなりません。そして試験に合格すれば、その資格が授与されます。米国では集合研修やオンライン直前講座などもあるのですが、日本ではまだ日本語マニュアルと日本語試験のみという独学で勉強しなければならない苦労があります。

(4) その他講習会

2018年は、海外の講習会の日本開催が相次いでいます。

(4)-a Uptime Institute

Tier制定の本家がやっと日本で講習会を開催します。ATD (Accredited Tier Designer) という構築の講習会/資格認定、とAOS (Accredited Operations Specialist) という運用の講習会/資格認定を予定しています。日本では、Uptime Instituteを始め、epiもDCPROも一般に対して運用講習会を実施していませんので、どなたでも受講できる本邦初講習会/資格認定となります。

(4)-b IDCA (International Data Center Authority)

IDCAという新しい考え方をしている団体があります。LinkedInというSNSを構築・運用しているメンバーが中心となって、単に空調や電気、通信という区分けではなく、ラック内で利用する機器のパーツ1つ1つから最適なデータセンターとは何かを検討していく「Infinity Program」を打ち出しています。ただ初級はどうしても他のデータセンター講習会と似たり寄ったりになっているようです。

(5) まとめ

それぞれの団体ごとに方法や技術の深度、アプローチに違いがあります。特にどの資格が優れているとか、どの資格が簡単に取得できるというものでもありません。また、これらの資格が無いとデータセンターを構築/運用できないという拘束性のあるものでもありません。ご自分の業務に必要であると感じたり、知識を深めたいという欲求を満たしてくれる資格かと思います。ご自分で勉強している技術に取りこぼしが無いか?勉強内容の正確性の確認、より深く技術を理解したいなど、それぞれのケースに合わせて、また開講しているタイミングに合わせて、選んでみるのが良いかと思います。

【参考】
epi データセンター研修
DCPRO データセンター研修
BICSI DCDC
Uptime Institute データセンター研修 (東京開催)
IDCA データセンター研修 (東京開催)

 

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投稿者: saeki takako

データセンター内外の通信配線について、お客様のコンサルティング等を行っています。